世界地図は夜作られる
男のオネショについて、あんな事こんな事(体験談や思い出等)を語り合いましょう。ゲイ表現が含まれていますのでご注意ください。
202404<<12345678910111213141516171819202122232425262728293031>>202406
『僕の兄貴は夜尿症』最終回(tetsuyaさん作)
tetsuyaさんから『僕の兄貴は夜尿症』のなんと最終回が送られてきました。でもいい結末ですので、読後はさわやかな感じです。tetsuyaさん、小説を書いてくださってほんとうにありがとうございます。


『僕の兄貴は夜尿症』最終回(tetsuyaさん作)

「子供の頃からずっと寝小便が治らなくてさ…」
杉本はそう言うとひょいと立ち上がり、夢の後始末を始めた。

杉本が夜尿症だった…

俺は頭をガンと殴られたような衝撃でその場に固まっていた。
立ち上がった彼の青のボクブリはぐしょぐしょに濡れ、
アンモニアの臭いが一気に部屋中に充満した。
それはいつもの俺をそのままそっくり再現しているようだった。
「ちょっとシャワー浴びてくる。ごめんな」
杉本はクローゼットからタオルと新しいボクブリを出すと、 濡れた格好のまま部屋を出た。

俺はそっと彼のベッドに近寄った。
アンモニアの臭いがますます濃くなる。 ベッドの上はかなりの大洪水だった。
俺はそっとシーツを剥がしてみた。
布団に幾重にも重なったションベンの輪染み。 その真ん中に今描いたばかりの世界地図が鎮座している。
「俺と同じだ…」
思わず呟いた。自分の布団を見ているのと何ら変わりなかった。
同じ大学内に…しかも同じ学部の中に俺と同類がいるなんて…
最初はただ驚きだったが、 やがて嬉しさの感情がこみあがってきた。
「何まじまじと見てんだよ~」
振り返るとドアのところに杉本がタオルで頭を拭きながら立ってい た。
「あ…ごめん」
俺はめくったシーツを元に戻した。
「戻さなくていいよ。どうせ洗うから。今日曇ってんな…」
杉本はカーテンを開け空を見上げた。
濡れたシーツをくしゃっと丸めてベッドの脇に置くと、 特大の世界地図が描かれた布団をひょいと持ち上げた。
ベランダにそのまま出ると手際よく布団を干していく…
「人に見られないの?」
俺はおずおずと聞いた。
「まぁ、見られるけど…しょうがないじゃん」
杉本は伸びをしながら言った。
「ま、小便のシミが幾重にも重なった布団を見たら、 誰だって寝小便垂れだって思うよな。
 きっとバレバレだけど、 どうせここの住人は知らない人ばかりだし」
「でもさ…」
「そんなこと気にしてたら布団乾かないよ」
「…」
「もしかして後藤も濡れたんじゃない?シャワー浴びる?」
杉本がタオルを差し出した。
「いや、さっきウェットティッシュで拭いたから…」
「そうか。すまなかったな…」
「悩んだりしないの?」
杉本はちょっと目を伏せて
「そりゃ悩むさ…旅行とか行けないし」
「…杉本…」
「ん?」
「実は…俺も…夜尿症なんだ」
俺は思い切って言った。沈黙が二人をしばらく包んだ後、
「知ってる」
と短く杉本は言った。
「え?」
俺は驚いた顔で彼の顔を見る。
「実は知ってた。以前から」
「え?どういうこと?」
「夕方バイトに行く途中、干してる布団をたまたま見たんだよ」
「…」
「幾重にもオネショのシミが重なっててさ。『あ、俺のと同じだ』 と思った」
そう言うと杉本はちょっと笑った。
「小学生かなと思ってちょっと立ち止まってみてたら、 中から学生服姿の人が出てきて取り込もうとしてた。
 まさか高校生!?と思って朝確かめてみようと思ったんだ。 悪いなとは思ったけどね」
高校生…きっと篤が俺の布団を勝手に取り込んでたんだろう。
「何度か朝行ってみたけど、いつも布団が干された後だったんだ。 それである日ちょっと早めに行ってみた。
 そしたら君が濡れた布団を干してたんだよ」
「…」
「俺は驚いたよ。 大学の講義でたまに見かけるヤツだってすぐに分かったから」
「でも…必ずしも自分のを干してるとは限らないじゃん。 もしかしたら弟のを干してるってこともありえない?」
俺は反論してみた。
「だって…あの時小学生にからかわれてたじゃないか…」
杉本は言いにくそうに言った。 俺は自分の顔が火照っていくのを感じた。
そうか。あの時小学生じゃなく杉本にも見られてたのか…
「気に障ったら申し訳ない」
杉本は手を合わせて言った。俺は何も言わなかった。
「俺は何としてでも友達になりたい!そう思った。だから…」
俺ははっとした。 杉本が初めてノートを借りたのは俺が小学生にからかわれた日だっ た。
「 特にテストでもないのに後藤に近づきたい一心でノートを借りたん だ」
「…」
「しょうがなかったんだよ。だっていきなり『 君も寝小便するんだよね?』 って話しかけるわけにもいかないだろ?
 俺はとにかく友達が欲しかった。 だって俺たちって孤独じゃないか」
「…」
「『大人は寝小便なんかしない』って皆常識のように思ってる。 だけどそれは違う。ごくごく少数だけど
 朝が来るのが怖いっていう大人だっている。でもそれは誰にも… 親にさえ分かってもらえない」
「…」
「一応世間じゃ『夜尿症』なんていって病気扱いされてるけど、 病気だからって同情されるか?
 むしろ笑いものにされるだけじゃん。 笑われる病気なんて病気とは言えねーよな」
「…」
「傷の舐めあいなのかもしれない。 でも誰か心から分かって話せる友人が欲しい。それだけなんだ。
 今日ムリヤリ後藤を泊めたのは、 俺の寝小便を見てもらいたかったんだ。 寝小便について話すきっかけが欲しかっただけなんだ」
杉本は最後涙声になっていた。
再び沈黙が降りてくる。どれくらいそうして二人でいただろう。 杉本は俺の言葉を待っているようだった。
「…ありがとう」
俺は小さく口を開いた。
「後藤…」
俺は杉本の言葉を頭で反芻する。そうだ…俺たちって孤独だ。
親にさえ理解されないまま弟に馬鹿にされ、 病院に行けば変態医師に弄られ、小学生にからかわれ…
病気だと世間はレッテルを貼りながらその実ただ劣等感を植え付け られるだけの毎日。
俺の苦しさなんて誰にも分かってもらえないと思っていた。 でも違った。目の前に同じ境遇に苦しむ友人がいる…
俺はいつしか泣いていた。
それを見て杉本は俺の肩に手をやると彼も涙をぬぐった。 俺は今までの辛さを思い出し子供のように泣いた。


「サークルを作らないか?」
杉本は対戦ゲームの手を休めて俺の方を見て言った。
あれから講義が終わった後や、 講義の合間に大学から程近い杉本の部屋でたむろすることが多くな った。
だいたい二人で対戦ゲームしてることが多いけれど。
「ん?サッカーの??」
「違うよ。Nサークル」
杉本がいたずらっぽく笑った。
「N?何のこと??」
「Nは寝小便のN」
俺は怪訝な目で杉本を見た。
「そろそろメンバーが来る。それから説明するよ」
さっぱり意味が分からない。 呆けた顔をしてると玄関のチャイムが鳴った。
杉本が出て行く。俺も後からついて行ってみた。
「こんちは~」
玄関に二人の男、多分俺と同世代の男が立っていた。
一人はすらっとした長身で俺と同じくらいの背があり、 もう一人はごく平均的な中肉中背だった。
杉本の友人なのだろうが、もちろん俺は全く面識がない。
「何?どういうこと?」
俺は杉本に尋ねた。
「これから始まるんだ。まぁ上がれよ。狭いとこだけど」
お邪魔します~ と二人は靴を揃えるとゲーム音が鳴りっぱなしの部屋に入った。
「俺お茶でも入れるから適当に座ってて!」
杉本はそういうと冷蔵庫をあけ忙しなく動き出す。
「意外ときれいだね」
中肉中背が長身に言った。
「そうですね。杉本さんってもっとガサツなイメージが…」
長身が笑うと杉本が盆にお茶を入れたコップを乗せて入ってきた。
「意外って余計だろ!ってか皆に言われるんだよな… 後藤にも最初言われたし」
そう言って俺の方を見るとコップを手渡してきた。
「じゃ自己紹介をしようか」
杉本が3人を見回して言った。俺がそれに口を挟んだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ。 何のことかさっぱりわからないんだけど…」
「え?杉ちゃん説明してないの?」
中肉中背が言った。
「あの…僕も中川さんも…夜尿症なんです」
長身が俺に諭すように言った。
「え?」
俺は一言発して固まった。
次に俺の口から出た言葉は「ホントに?」だった。
「僕は中川和也。●●大学の3回生です。 ちなみにオネショは週3回です。」
中肉中背が最後はにかんで言った。●●大学… この辺じゃ一番頭のいい大学だ。
「僕は木田賢太郎といいます。高校2年です。…僕は…… 週5回です。」
長身が恥ずかしそうに頭をぺこりと下げた。
「ほ…ホントなの!?俺騙されてるんじゃ…」
俺が言うと杉本が
「何でこんなことでウソつくんだよ。 そんな意味のないことはしねーよ」
「でも…こんなにオネショするヤツがいるわけが…」
「合宿があったんですよ」
中川が話し始める。
「医者が主催した『夜尿症矯正合宿』ってのがあって、 それにたまたま僕ら3人参加してたんです」
「夜尿症…矯正…」
そんな合宿が… しかも俺と歳の近いヤツが3人も参加してたなんて…
「その合宿でオネショが治った… なんてことは全くなかったんですけど、 3人とも連絡先だけは交換してたんです。
 それで今日サークル結成するからってことで呼ばれたんですよ」
「サークル?」
俺は杉本の方を見た。
「さっきも言っただろ?寝小便サークル、略してNサークル。」
「サークルって…何すんの?」
「まぁ皆でつるんで楽しいことしたいなって思ってる。 今までできなかったことあるだろ?
 時間とか明日のこと気にせずに思いっきり酒を飲むとかさ。あ、ケンタロウは未成年だからダメだけどな」
杉本は木田の方を見て言った。
「それより今考えているのは、修学旅行だ」
「修学旅行!?」
俺だけじゃなく木田や中川も杉本を見た。
「俺は中高と修学旅行行けなかった。いや、行かなかった。 でも今でも後悔するんだよな。
 行けばきっと楽しかっただろうなって。 今も正直夢に見ることだってある」
中川と木田がうんうんとうなずいた。
「だから俺たちだけで修学旅行に行くんだよ。修学旅行の再現だ。 俺たち皆寝小便垂れなんだから気兼ねすることもない。
 寝小便がバレるんじゃないかって気を揉む必要もない」
「それ、いいアイディアですね」
木田が言った。
「そうだな。 そういや俺旅行らしい旅行って殆ど行ってないもんな…」
中川がしみじみ言った。
そうだ。 俺も旅行らしい旅行なんてばあちゃんの家に行くくらいだった。
オムツをもって旅行に行くなんて弟の手前プライドが許さなかった し、 彼女と一緒に旅行なんてそんな危険な橋を渡る勇気などなかった。
「京都に行こうかと思ってる」
杉本が続けた。
「え?もう場所まで決めてんの?」
中川が笑った。
「でも修学旅行といえばやっぱり京都ですよね」
木田が頷いた。
「そういえば君は何て名前なの?」
中川が俺を見た。
「あ、俺は後藤雄介といいます。えっと……週3回です」
言いながら俺は顔を赤らめた。 本当はほぼ週4回だけどちょっと鯖読んでしまった。
「よし!じゃあNサークル結成式だ!!」
杉本は冷蔵庫を開けるとビールを取り出した。
「今日はじゃんじゃん飲もうぜ!あ、ケンタロウは未成年だからノンアルな!」
「じゃんじゃん飲んだら絶対やっちゃうよ?いいの?」
中川が肘で杉本をつついた。
「それは困るんで~!ヤバイ人はオムツ貸すから着けてね! まぁ皆ヤバイんだろうけどさ。
 ウチも皆に布団濡らされたらさすがに乾かないからな」
中川と木田が笑った。俺もそれにつられて笑った。
オネショをネタに笑うなんて初めてのことだった。 こんなに開放された気持ちで飲むのも生まれて初めてかもしれない 。
「それじゃ乾杯しよーぜ!」
「かんぱーい!!!」
4人の掛け声が重なった。


朝8時40分。俺は今日もオネショで濡れた布団を抱え庭に出た。
もう通行人に見られたって構わない。 堂々と玄関先に南米大陸地図を広げた。
そう思えるようになったのは杉本が堂々とオネショ布団を干してい たのを見たからだ。
彼の潔さに俺も若干感化されたのかもしれない。
けれどさすがに小学生にからかわれるのは嫌なので彼らの通学時間 をずらしてはいたが。
「おはようございます」
俺が家に入ろうとしたとき、後ろから声がした。 この前の小学生だった。
「おう。おはよう」
俺は手を挙げて言った。
「今日もやっちゃったんですね」
「あぁ。見ての通りだよ。情けないよな…大学生にもなって…… 君は?」
「僕もやっちゃいました…」
そう言って彼は目を伏せた。
「そっか。これからどんどん寒くなってくるからお互いキツいな」
俺は努めて明るく言った。
「あ、そうだ。よかったらサークルに入らないか?」
「え?サークル?」
「そう。Nサークルって言うんだ。Nは寝小便のN」
俺はちょっとはにかんで言った。
小学生がきょとんとした顔で俺を見る。
朝の目映い光がオネショ布団を照らしてきらきらと輝いていた。
何か楽しいことが始まりそうだ。 そう予感させる初冬の空の青さだった。



テーマ:GAY - ジャンル:アダルト

コメント
この記事へのコメント
ありがとうございました
1年以上中断していたこの小説も、ようやく大団円を迎えることができました。
再開後は結構スイスイと筆が進んだので、自分でも書いてて楽しかったです。
いつもながら小説に対する反応が薄いのは寂しい限りですが、
これからも半ばライフワークとして書き続けていけたらなと思っています。
最後まで読んでくださった皆さん、ありがとうございましたm(__)m
2013/08/29(木) 00:33:21 | URL | tetsuya #Tipl/IsA[ 編集]
Re: ありがとうございました
tetsuyaさま

ほんとうにお疲れ様でした。小説楽しませていただきました。
なんかNサークルのことが気になってしょうがありません。
またいつでもいいですのですが、続きが書ける状況になりましたら、この先をお願いいたします。
tetsuya、ありがとうございます。
2013/08/29(木) 21:19:15 | URL | ♂世界地図♂ #-[ 編集]
大団円ですかね?
読んだ瞬間、「よかった」とほっとしました。
男の子も救われて、きっとより良い人生になっていくでしょう。
おねしょ小説は長いこと読んでいますが、
ここまで温かい気持ちで終わったのは初めてです。

良い作品を読ませてくださって、tetsuyaさん、
本当にありがとうございました。
2013/08/30(金) 16:06:32 | URL | 鯖味噌缶詰 #-[ 編集]
小説よかったです
tetsuyaさん、noriです。お疲れ様でした。本当に楽しませていただきました。ありがとうございます。
イケメンNサークルがこれからどうなるのか、楽しみに待っています。
2013/08/30(金) 16:35:46 | URL | nori #-[ 編集]
tetsuyaさんに感謝
鯖味噌缶詰さま
noriさま

ホントに小説よかったですよね。tetsuyaさんに感謝します。
ほんとうに小説を書いていただきありがとうございました。
2013/09/01(日) 20:53:43 | URL | ♂世界地図♂ #-[ 編集]
コメントを投稿する

管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
copyright © 2004-2005 Powered By FC2ブログ allrights reserved.